連休を利用して念願だった鳥海山千蛇谷〜中島台ルートに行ってきた。
新山から中島台へくだるこのルート、我が国屈指のロングコースだ。
日帰りでピストンするツワモノもいるがわれわれは途中でのんびりテント泊。
連れが以前、祓川ヒュッテ~山頂~千蛇谷~中島台を滑った折、途中のブナ林に張られたテントの印象が忘れられず、というのがこの計画のきっかけだ。
■日時:2018年4月29日~30日
■ルート:中島台~950m付近テント泊~千蛇谷源頭(2000m付近)~滑降~中島台
■メンバー:KK、CK
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スタート地点の中島台駐車場の積雪はゼロ。
4月の高温で融雪が急激に進んだよう。
スキーを背負っての出発となった。
テント泊でただでさえ重いザックにスキーが加わった。
中島台周辺の森は鳥海自然休養林で、リクリエーションの場として木道が整備されている。
「この先にスキー場があるんですか?」
すれ違う散策者が不思議そうにたずねてくる。
雪がまったくない森の中を、派手なウェアをまとってスキーを背負い歩いてくる姿には正直仰天だろう。
赤川の橋を渡った。
融雪で水量が多いが、普段でも橋がなければ渡れない流れだ。
その先も木道が続く。残雪も出てきた。
名物の奇形木「ブナのあがりこ」が目立ってきた。
奇形木の原因は定かでないが、付近に炭窯跡が多く見つかっていることから、雪上で伐採された幹から萌芽したためとする説が有力だ。
幹があがったところで子に分かれていることから「あがりこ」と命名。
中でもひときわ大きいのが「あがりこ大王」だ。
樹齢300年といわれるこの巨木は、林野庁の「森の巨人たち百選」にも選定されている。
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あがりこ大王 |
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木道は「あがりこ大王」まで。
ここから藪こぎだ。
15分ぐらいの藪こぎでようやく雪がつながりスキーを装着。
芽吹いたばかりの新緑のブナ林を気持ちよく歩いた。
小沢の急坂を詰めていくときれいなブナ林の台地に出た。
雪が消えたあちこちの湿地にはミズバショウが顔を出していた。
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ミズバショウが顔を出す |
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しばらく森の中を進むと、地形図でも明瞭な、赤川と鳥越川の間にある急坂の細尾根にでた。
割れた雪の下から轟音の鳥越川がのぞいていた。
鳥越川 |
地元の高校生のグループがおりてきた。
引率の先生らしき方と言葉を交わした。
途中でテント泊する旨を伝えると、
「今朝登山していたらこの先の大地でテントが飛ばされてたよ。周辺のブナの枝もかなり折れてた。今朝まで風が強かったのかなあ?」
とのこと。
今では風はすっかりやんでいる。
今夜は大丈夫だろう。
細尾根を登ると初めてスキーヤーがおりてきた。
「七五三掛(しめかけ)のあたりはストップ雪だったけど、それ以外はいい感じのザラメでしたよ」
期待は膨らむ。
しばらくたどってきた赤川と鳥越川分岐点を横切った。
すると鳥海山が一望できるきれいなブナ林に出た。
今夜はここにお世話になることにしよう。
我々以外にテントはなかった。
鳥海山が一望できる風のあたらない窪地に陣取った。
これから鳥海山を独り占めしながらのんびりだ。
一等地に設営 |
早めのディナーはきりたんぽ鍋。
鶏肉と野菜を煮込んで最後にきりたんぽを放り込む。
きりたんぽ |
夕食をとっているとどんどん日が暮れてきた。
背後の山に夕陽がさしかかると樹影がのびた。
正面の鳥海山も染まってきた。
雪面にのびる樹影と夕陽を浴びた鳥海山。
テント泊でしか味わえない絶景だった。
日が沈むと月が昇ってきた。
月明かりはまぶしいくらいで、
鳥海山の輪郭を照らし雪面にブナのシルエットを映した。
こんな特級のテン場には滅多にお目にかかれない。
この夜、月照の鳥海を存分に堪能させていただいた。
2日目。
4時。鳥のさえずりで目をさました。
寝床は快適で#3のシュラフとシュラフカバーで問題なかった。
スキーブーツのインナーを履いてシュラフに入ったが、夜中暑くて脱いだぐらい。
穏やかな夜でつくづく良かった。
コーヒーを飲みながらピンクに染まっていく東の空を眺めていた。
鳥海のてっぺんが輝いてきた。
そして山の端から光芒が放たれると、芽吹く直前のブナのあいだから太陽が昇ってきた。
雲ひとつない空。
今日もよく晴れそうだ。
これから千蛇谷の源頭まで行く予定だ。
標高差1000m。
大半の荷物はテントとともにデポ。
荷物が軽いので何とかなるだろう。
朝食の揚げ入りうどんを流し込み、すでに照りつける太陽を横目に出発した。
谷の右岸のかなり端の方を登って行った。
右手には次から次へと見事なオープンバーンが現れる。
滑りが楽しみだ。
外輪山の壁を豆粒のような点が移動していた。
よーく見るとスキーヤーのようだ。
七五三掛の手前からトラバースで千蛇谷におりているようだ。
しばらくして同じ地点から複数の人がトラバースしていた。
スキーならではのドロップポイントなのだろうか。
滑落したら大変なことになりそうところにみえた。
3時間ほど登ると七五三掛の下部にあるこのコースの白眉ともいえる大オープンバーンが行く手を阻む。
さきほどトラバースしてきた数人のスキーヤーが直登ぎみに登っていた。
われわれも続いた。
比較的ゆるそうな斜面右側に回り込んで登った。
難渋しながら大斜面を登ると七五三掛が一望できるところへ。
七五三掛からは次から次へと登山者、スキーヤーがおりていた
七五三掛 |
遠くに千蛇谷のノドが見えていた。
あそこを越えたら引き返そう。
薄雲がかかりだした空のもと源頭を目指した。
そのころからボーダーやスキーヤーが歓声をあげながら滑ってきた。
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ボーダー |
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ノドを抜け、伏拝岳が正面に見える地点で登高終了。
いよいよ滑降だ。
千蛇谷に視線を落とすと、はるか下界には日本海や発電風車が見える。
稲倉岳もくっきりだ。
千蛇谷 |
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山を抜け海に向かっての大滑走が始まった。
大オープンバーンは爽快そのもの。
誰もいない大斜面を一気に滑りおりた。
滑っても滑っても現れる大オープンバーン。
これこそ鳥海の醍醐味。
山スキーの鉄板コースを堪能した。
そしてあっという間にテン場に到着した。
気温はかなり上昇している。
雪で冷やしておいたノンアルコールビールがうまい。
テン場を撤収し重たいザックを背負って下山を開始した。
この先は滑りを楽しめるところはなくひたすらスキーで移動だ。
高温で緩んだ雪は板が走らず若干苦行気味。
加えて負傷した膝への負担が気になりいつもどおりの動きがとれない。
ゆっくり時間をかけてブナの森を抜けていった。
そんな中、相変わらず美しいブナの森がせめてもの癒しだった。
残雪の森が射光によって美しさを増していた。
最後の沢筋についたわずかな残雪をたどるといよいよ雪が切れた。
ここからは藪こぎであがりこ大王を経由し、その先は長い木道だ。
帰り道が異様に長く感じるのは山行の常。
今回はけっこうこたえた。
負傷した膝をかばったのか足の疲労はピーク。
スキーを付けた重たいザックがそれに拍車をかけた。
やっと見えたクルマの姿にすーと疲れも吹き飛んだ。
なにより絶好の天気に恵まれた今回。
テント泊も交えた思い出深い山行となった。
鍋倉山で山スキーを復帰したのが3週間前。
今回もリハビリ山行の一環だったが、さすがにハードだった。