2024年4月 オートルート シャモニー〜ツェルマット【5日目】

By , 2024年5月9日 10:10 AM

オートルート 5日目(4/6)ヴィニエット小屋〜レベックのコル〜アローラ氷河〜ベルトール小屋

山行記録は7回シリーズです。
【プロローグ編】                     
【1日目】2024年4月2日 グランモンテ〜シャンペ 
【2日目】4月3日 ヴェルビエ〜プラフルーリ小屋
【3日目】4月4日 プラフルーリ小屋〜ディス小屋
【4日目】4月5日 ディス小屋〜ヴィニエット小屋
【5日目】4月6日 ヴィニエット小屋〜ベルトール小屋
【6日目】4月7日 ベルトール小屋〜ツェルマット
 
今回の全行程 >>> クリックで拡大
Haute_route All
 
 5日目のルート >>> クリックで拡大
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ヴィニエット小屋の朝食
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今日も6:00出発。ヘッドランプを頼りに小屋の前の細尾根を慎重に滑り降りる。そこからトラバースして平原に立ったところでシールをつけた。
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 ヴィニエット小屋方面を振り返って
 

昨夜ビニエット小屋に泊まっていたわれわれ以外のほぼ全てのパーティはレベックのコル(Col de l’Eveque)を越えたらその日中にツェルマットへ下りるとガイドが話していた。ベルトール小屋(Bertol Hut:3311m)を経由するのはノーマルルートではないらしく、これは誰のアイデアかと聞いてきたらしい。Eさんのアイデアだが、その理由は行ってみてよくわかった。詳細は後述する。

 
レベックのコルへ
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 レベックのコル
 

レベックのコルを越えると一瞬イタリアに入りツェルマットへのルートと分ける。われわれは大きく左に旋回し再びスイスに入った。このルートを取るのはやはりわれわれだけのようでトレースはひとつもない。右岸の支尾根には避難小屋(Refuge des Bouquetins CAS)が見えた。やがてアローラ氷河の広く大きな谷に入っていった。鳥海の千蛇谷を数倍大きくしたような広大な谷だった。
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この辺はイタリアかな?
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避難小屋
 

いくつかのパーティが登ってくる。ガイドがルートの状況をヒアリングしていた。続くパーティの一人が「日本人ですか?」と聞いてきた。そうだと答えると「わたしはドイツからきました」と流暢な日本語で喋っている。
「日本語上手ですね」
「にほんにすんでいたことがあります」
「日本のどこですか?」
「さいたまのところざわです」
あまりのローカルさに思わず吹き出してしまった。これから上まで登って日帰りでアローラに戻るとのことだ。
「お気をつけて」
「ありがとうございます。たのしんでください」
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日本語が上手なドイツ人
 

広いアローラ氷河の左岸をしばらくトラバース。あまりの広大さに夢の中を滑っているような感覚だった。
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アローラ氷河を振り返って
 

やがて複数のトレースが交わる地点に着いた。アローラからたくさんの人々が登ってくる。上からも滑り降りてくる。ガイドが呼び止め斜面の状況を聞いていた。この先斜面が硬いのでクトーを着けろとのこと。
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この先の下流がアローラ
ヴィニエット小屋は正面の山の中にある。
あの崖を滑り下りれれば10分ぐらいでここまで来られる、とは言っていたが・・・。
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 斜面の状況を聞くガイド
 

いよいよ今回最後の山小屋ベルトールへの登り、標高差は600m。ベルトール小屋の標高は3311mで、今回の行程中もっとも高い場所にある小屋だ。徐々に斜度がきつくなってきた。200mほど登ったところから急斜面を巻いていくが、ここがいやらしかった。斜面はカリカリでクトーを効かせるのもひと苦労。おまけに上からスキーヤーが次々に滑り降りてくる。そのうちの一人が私が難儀しているちょうど上でバランスを崩して倒れ込んだ。もし彼がそこで滑落していたら私は巻き添いを喰らって谷の底だったかもしれない。今考えてもゾッとする。少し先でわれわれをフォローしていたガイドが私の後ろの方を見ながら「おーーーー」と叫んでいた。私は後ろを振り向く余裕もなくひたすらエッジを噛ませて踏ん張っていた時だ。あとで聞いたがそのスキーヤーはこの先で暴走しバランスを崩して滑落したそうだ。かなり下った先だったので雪が付いているところで止まって大事には至らなかったようだが。ちなみにこのあたり、ツェルマットからヴェルビエに抜ける山岳レースPDGPatrouille des Glaciers)のコースになっている。支柱が立てられていたがレース本番ではここに滑落防止の網が張られるらしい。それほど滑落の危険がある場所ということだ。このレースのトレーニングで多くの山岳スキーヤーが訪れていたのかもしれない。余談だがこのPDG、第二次世界大戦真っ只中の1943年に始まったスイス軍の兵士能力テストが起源の山岳スキーレースである。隔年開催で今年は開催年だ。日程は2024年4月17日〜21日。この原稿を書いている今、まさにアルプスの山中で熱戦が繰り広げられていることになる。(後日知ったが、今大会はアルプス全体が悪天候で4本中3本のレースが中止になったそうだ)
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難所を過ぎると後はひたすら登るだけだ。軽装の男女がものすごいスピードで駆け上がっていった。やがて斜面の上の方にベルトール小屋が小さく見えてきた。あと標高差300mぐらいだ。振り向くときのう登ったピンダローラが真っ白でまろやかな姿を見せていた。
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ピン・ダローラをバックに
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一歩一歩小屋が近づいてきた。ヴィニエット小屋同様、これまたすごいところに建てたものだと感心する。最後の急坂を登ってようやく小屋に着いた。小屋の周りに平な落ち着けるところはなくわずかなスペースに腰を下ろして後続を待った。
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右上にベルトール小屋が見える
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小屋の周りに落ち着けるところはない
 

全員が到着した。スキーは小屋へは持ち込めないためデポするが、明日の滑走に備えて尾根の反対側にデポした。小屋へはハシゴで登っていく。ハシゴで登るとは聞いていたが正直ここまで長いハシゴだとは思っていなかった。スキーブーツでの登りは滑りそうで怖い。セルフビレイしながら一段一段登っていった。ハシゴを登り切ると階段になるがこれも足場用の階段で心許ない。ようやく玄関まで来たが、足場は鉄の網で足下には谷底が丸見え。震えながら小屋に飛び込んだ。岩綾の上にはみ出すように建てられた小屋はまるで肝試しでもしているかのよう。まんまとドッキリ企画にはめられたような心境だった。
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「Bienvenue」 フランス語でWelcome
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ハシゴ上部より リッジの上に小屋が建っている
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ベルトール小屋は名物小屋。たしかにこんな小屋にはめったにお目にかかれないだろう。なるほどEさんがベルトール小屋にこだわった理由がわかった。オートルートに来るならやはりベルトール小屋は外せないと予約してくれたのだ。そしてこの小屋、予約は電話のみ、かつ、すぐに埋まってしまうらしい。今回の計画はベルトール小屋の予約日を軸に組んでいったともいえる。ありがとうEさんMさん
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トイレは外
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融水を引水
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まずはお決まりのロスティをと思ったがメニューになく、 Crouteという料理で空腹を満たした。隣のテーブルではカードゲームに興じていた。ヨーロッパではトランプが盛んのようだ。宿帳が回ってきて記名した。ページをめくる限りここ数年は日本人の名前は見当たらなかった。
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小屋は円形になっていて食堂からの眺めも抜群。マッターホルンが穂先を少しだけ覗かせていた。明日通るルートにはいくつかのトレースがついていた。
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マッターホルンが覗く
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仲間が昼寝をしている間、私は撮影にいそしんだ。太陽がいい感じに傾き一帯が琥珀色に染まってきた。外の階段を陣取りピンダローラ方面にレンズを向けた。刻々と変化する光と影をカメラに収め続けた。実にいい時間だった。
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ベルトール小屋からピン・ダローラ
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反対側にはマッターホルン
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穂先を覗かせるマッターホルン
 

夕食。まずスープ、そしてメインはライスの上に肉がのせられたもの。このライスが思いっきりアルデンテで、私はこんなものかと美味しく食べていたが、ガイドが「これはMistakeだ」といって顔をしかめていた。厨房がかなり混乱していたのでご飯がうまく炊けなかったのかもしれない。明日の朝食のオーダーを書きながらデザートを食べた。
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小屋の主人から明日の天気について説明があったが言葉が分からずさっぱりだった。どうやらあまりいい条件ではなさそう。「大丈夫そうですか?」と聞くと「彼はペシミスト。大丈夫だ」とガイド。

部屋の窓からは残照のピンダローラが名残を惜しんでいた。
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夜はなかなか寝付けなかった。高度のせいかもしれない。何度も目を覚まし何回かトイレに行った。トイレは外にあって、つまり下がスケルトンの鉄の網の上を通らなければならない。真っ暗で何も見えないことが幸いして怖くなかったが。夜中外に出たときかなり強い風が吹いていた。明日予定通りに行けるか不安になる。

 

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