2024年9月 百名山最難関 幌尻岳
今年の遅めの夏季休暇は北海道の山をセレクトした。目指したのは北海道の背骨と呼ばれる日高山脈の最高峰幌尻岳だ。
休暇の期間は天候が悪く、唯一晴れそうなのが北海道だけだった。いつかは行きたいと思っていた幌尻岳だったが、この時点でまさか登ることになるとは考えもしていなかった。何気なく幌尻山荘の予約サイトを見たところ、直前でキャンセルが出たらしく思いがけず予約できた。そんなわけで急きょ北海道行きとなった。
幌尻岳といえば百名山の中でも最難関レベルといわれている。また、日帰りが難しくテント泊は禁止でおのずと小屋泊まりとなるが、この幌尻山荘がなかなか予約がとれない。これが山行を一層困難にしているところもあるらしい。われわれは運良く1週間前に予約が取れたが、現地で話した登山者の多くが1年前から予約していると聞いて驚いた。
幌尻岳についてこれまで特に調べたことはなかったが、ものの本には「百名山最難関」だとか「登山の難易度が高く簡単には登れない山」とか物々しく書かれていたことは知っていた。この夏、空木岳へ向かう途中でバスで隣になった方も百名山の中で一番きつかったのが幌尻岳といっていた。なんだかハードルが高そうだ。
あわてて情報収集。要は百名山唯一、登山コースに沢の渡渉があることが難易度を上げている一番の理由のようだ。増水時に流されて死亡した例もあるらしい。とはいえ今回は9月の中旬で水量も落ち着いているだろうし、沢歩きはそこそこ慣れているので大丈夫だろうと言い聞かせながら引き出しの奥から沢装備をひっぱり出した。
ところで山行予定5日前時点で先月の大雨で大規模落石が発生し林道は通行できない状況だった。翌日の4日前には開通しほっと胸をなでおろした。のちに山小屋の管理人さんから聞いた話によると、われわれが山行した日程には開通の見込みはほぼなかったらしく、工事関係者の尽力でギリギリ間に合ったようだった。この幸運には感謝しかなかった。
ちなみに、北海道山行で課題になるのがガス缶問題。ガス缶は飛行機には持ち込めず預ける荷物にも入れることができない。固形燃料も同様だ。幌尻山荘は食事の提供がないため自炊で、ガス缶は必須となる。時間に余裕があれば道内で購入すれば問題ないが、今回は諸事情により千歳に21:00前に着いて翌朝4:00のシャトルバスに乗るため道内での購入は困難。ネットで調べるとAmazonで購入し受け取り場所を北海道のコンビニにすればいいとの情報があったが、危険物だとかなんとかでこのやり方は今はできなくなっていた。空港内に販売しているところがあるが、20:30閉店で間に合わない。登山口までのシャトルバスが出発する「とよぬか山荘」でも購入できるとのことで問い合わせてみたが、売店は朝7:30からでこれも無理。夜中にアウトドアショップも開いてない。そもそもタイトなスケジュールというのが原因だが、いよいよ困ってしまった。そんななか偶然目にしたのが「家庭で使うCB缶(カセットボンベ缶)はコンビニで購入できる」という記事。その中で「いつも山で使っているOD缶(アウトドア缶)用のヘッドをCB缶で使えるよう変換するアダプター」が紹介されていた。なるほどこの手があったか!ということで、この情報のおかげですったもんだしたガス缶問題は一気に解決した。さっそく変換アダプターとやらをAmazonで購入し翌日には配送されてきた(この問題に気づくのが前日とかだったらアウトだった)。現地のコンビニには某有名メーカーのCB缶がしっかり置いてあった、念のため。また、余ったガス缶はシャトルバス発着点のとよぬか山荘で引き取ってくれる。北海道のガス缶問題。悩む人が結構多いと思うので参考まで。
羽田は相変わらずの猛暑。夕日を見ながら飛行機に乗り込んだ。千歳に降りるとさすがは北海道、いい感じの涼しさだった。レンタカーを借りてコンビニでCB缶を購入し、途中の道の駅で仮眠した。
真っ暗で何の景色も見えない道を走って3:00頃とよぬか山荘に着いた。バスは4:00発。自販機で駐車料金300円とバスのチケットを購入。ちなみにとよぬか山荘の駐車場は車中泊禁止。鍵が閉まっているので山荘のトイレは使えない。4:00のバスには10名ほどが乗り込んだ。ほとんどがとよぬか山荘に前泊したようだ。
バスは糠平川林道に入っていった。途中から未舗装になり鹿の群れを何度も追いちらしながら進んで行った。辺りがうっすら明るくなってきたころ終点の第2ゲートに到着。ここまで約1時間。バスの終点には休憩やビバーク用のプレハブ小屋と簡易トイレがある。一同準備を整えて林道を歩き始めた。
バス終点の第2ゲート |
取水施設 |
ちょっとしたヘツリ |
最初の渡渉地点 |
四ノ沢出合の仮橋 |
四ノ沢 |
最後の渡渉 |
幌尻山荘到着 |
小屋の先はいきなり急登だ。エゾマツやトドマツなどの針葉樹が優占する樹林帯をジグザグで登っていく。次第に広葉樹が混じり傾斜がゆるくなった標高1500m付近では見事なダケカンバの森が迎えてくれた。このころ視界が開け、左側には日高山脈の主稜線が見えてきた。「命の泉」の入り口で一本取った。
幌尻岳が見えた |
ヒグマの糞 |
戸蔦別岳方面 |
奥には十勝岳連峰と大雪山系 |
北カール |
小屋に戻るとみんなが外で夕げを楽しんでいた。われわれも湯を沸かし山では十分なほどうまいフリーズドライのカレーで腹を満たした。夕刻ともなるとさすがに冷え込み、熱いお茶がおいしかった。
CB缶→OD缶変換の図 |
朝は早朝組が暗いうちから小屋をあとにしていた。われわれは山の中でゆっくりしたかったため、あえて17:00のバスを予約していた。ほとんどの人々が出かけた後、ゆっくり朝食をとりコーヒーをたしなんだ。それから山小屋をゆっくり見たり管理人さんと話をしたりと贅沢な時間を過ごした。小屋で販売しているビールや水、軽食などは人力で運んでいるそう。ビールの空き缶は回収してくれるが、この空き缶は管理人さんが荷下げしていて、この日も空き缶の入った大きなビニール袋をザックにくくりつけて沢を下っていった。これで3日分だそうだ。それからは小屋の裏手から戸蔦別岳に登るコースを見に行った。小屋裏の沢の水量は豊富で岩から岩へ飛び越えながら渡った。ルートはしばらく沢沿いに延びていて適当なところで引き返した。こうしてなかなか訪れることができない日高の山の中で豊かな時間をを過ごした。
トイレ |
2階 |
空き缶の荷下げ これで3日分 |
ゆっくり支度をして昼前に小屋をあとにした。お世話になりました。
帰りはひとつひとつの渡渉を動画を撮りながら下った。天気にも恵まれ、美しい水の流れが渓谷美を演出し、澄んだ底の岩がキラキラと輝いていた。淀みで昆虫にライズするイワナの姿も見ながらの楽しい渓歩きとなった。帰りの楽しみ、小屋で購入したカップラーメンを沢でいただいた。渓にたたずみながら贅沢なランチタイムとなった。
あとは靴を履き替えて林道を黙々と歩くだけだ。歩きながら楽しかった2日間が回想された。沢の渡渉、ヒグマの恐怖、急登の先に現れた幌尻の偉大な姿、山頂からの眺め、満床の山小屋、どれもが楽しい思い出となって蘇ってきた。最難関といわれる幌尻岳、他の山では味わうことができない独特の魅力を持っているようだ。
下山後はとよぬか山荘に後泊した。廃校になった校舎を改装した施設で、中は綺麗で快適だった。風呂に入ってジンギスカンでお腹を満たしたら就寝。2日間の疲れが溜まっていたせいかぐっすり眠ることができた。
名物ジンギスカン |
お弁当のおにぎり 一人4個 |
豊糠小中学校跡をリノベ |
駐車場 |