天候が安定しそうな日に聖平小屋が予約できたので南アルプスの聖岳に行ってきた。
南アルプスの山はどれも手強いが、中でも聖岳はもっともハードとの呼び声が高い。
今回は長野側から入った。芝沢ゲートから易老渡(いろうど)、便ヶ島(たよりがしま)、西沢渡(にしざわど)と林道を歩き、そこから標高差1300mの急尾根を登って聖平小屋へ。翌朝聖岳に登頂し、2300mを一気に下山する1泊2日の行程だ。
芝沢ゲートまではこれがなかなか遠い。飯田から遠山郷に入り、日本のチロルと呼ばれる下栗の里を通っていくのだが、夜遅かったため道は暗く、そして細いため、飯田から3時間かかった。平日にも関わらずゲート前の駐車スペースはほぼ満車だった。
仮眠してまだ真っ暗な4時すぎにゲートを出発した。
1時間ほどで易老渡、そこから30分で聖光小屋がある便ヶ島、そこから40分で名物の渡しゴンドラがある西沢渡についた。
試しにゴンドラを引っ張ってみたがかなり重たい。相当な腕力が必要そうだ。これからきつい登りが待っているため体力温存で仮橋で渡った。

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西沢渡のゴンドラ |
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仮橋 |
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沢を渡るといよいよ急登が始まった。営林小屋を過ぎてからは急な尾根道がしばらく続いた。脚がつりそうになるほどの斜度だった。
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延々と続く急登 |
標高1800m付近にあるモミの大木がある広場を過ぎてもまだまだ急坂は続く。たまらず休憩。
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大木の広場 |
息を整えて登り始めた。標高2000mの苔平付近は見事なコメツガと苔の森が広がっていた。
さらに標高を上げると次第に幻想的なシラビソの森になっていった。
長い森を抜けてトラバースしていくと視界が開け、薊畑(あざみばた)分岐に到着。ここで標高2400m。駐車場からの標高差は実に1700mだ。けっこうこたえた。
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薊畑分岐 |
聖岳は明日の楽しみにしてこの日は聖平小屋へ向かった。分岐から20分ほど下ったところにある。
小屋までの間ではミヤマトリカブト、タカネマツムシソウ、リンドウなどの高山植物が迎えてくれた。
上河内岳への分岐を左に進むと木道になり、まもなく聖平小屋に着いた。芝沢ゲートからは7時間弱だった。
小屋は綺麗で、建て替えたのが20年前とは思われなかった。水は小屋の玄関のすぐそばまで引いてあった。トイレは別棟にあるが水洗でかなり綺麗。スタッフの努力のおかげだ。就寝スペースも十分でカーテンで仕切れプライバシーにも配慮されていた。テント場も広くて快適そうだ。小屋には一番乗りでベストポジションを確保。
周辺を散策。上河内岳への分岐の方へ行ってみた。この辺は見通しがよくケータイも入るようだ。あいにく山は雲に覆われていた。針葉樹と草原が雰囲気ある景観を作っていた。
聖平小屋は食事の提供はなく自炊。今宵の夕食は五目ごはんのアルファ米に酢飯の素を入れた「五目手巻き寿司」。酸味が食欲を刺激して一気に平らげた。明日の朝食のアルファ米を準備して早めに就寝した。
翌朝2時に起床。ほとんどの宿泊者が就寝している中そっと支度した。山頂でご来光を拝むためだ。テント泊の若者縦走パーティが出発していった。そのあとを追うように3時に小屋を出発。ヘッデンを頼りに登山道を進んだ。途中の薊畑分岐に余計な荷物をデポする。若者パーティと抜きつ抜かれつで進んだ。小聖岳の手前で森林限界を越えると風が出てきた。結構な強風で体が冷えていく。ハードシェルを着込んだ。登山道が細尾根になってきた。まだ暗く地形の状況は確認できないが左側は崖で大きく切れ落ちている感じだった。細尾根を過ぎるとザレ場のジグザグになった。そのころ東の空が明るくなってきて暁光の彼方には富士山が見える。ジグザグの登山道が東を向くたびに黎明の富士山が正面に見えていた。空は次第に赤く染まってきた。そして小屋から2時間で聖岳山頂に。かなりの強風で寒い。思わずダウンを羽織った。雲海に浮かぶ富士山がいつもの秀麗なシルエットを見せていた。北側では聖岳に対峙するように赤石岳が圧倒的な存在感で迫っている。ハイマツの陰を陣取ってご来光を待った。雲海の先が輝きはじめた。地平線から光線が放たれた瞬間、太陽がその玉歩を進めた。やはり3000mから拝むご来光は格別だ。ご来光の反対側を見ると見事なピラミッドが大地に定まっていた。影聖岳だ。苦しい登りが一気に吹き飛ぶ最高の時間を過ごすことができた。きてよかった。つくづくそう思った。
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黎明の富士山 |
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奥聖岳 |
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ご来光と富士山 |
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赤石岳 |
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影聖岳 |
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下山していると小屋からの登山者がたくさん登ってきた。ガスの合間から細尾根の登山道がのぞく。しばらく下って振り返るとどっしりとした聖岳が見送ってくれた。
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聖岳の勇姿 |
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小聖岳を過ぎると朝日に輝く木漏れ日がきれいだった。聖岳も相変わらず見送ってくれていた。
薊畑からは南アルプス南部の山並みがスッキリ見渡せた。
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上河内岳 |
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茶臼岳、イザルガ岳、光岳 |
登山口までの途中に通った下栗の里。この里の生い立ちは定かではないが、一説には、大昔にこの山脈の裏の大井川の方から茶臼岳を越えてきた人々が住み着いたともいわれている。下栗のあたりに食料となる栗が豊富だったからではないか。地名の由来なのかもしれない。ともあれこの雄大な山々を越えてやってきた古人の足跡を想うと壮大なロマンを感じないわけにはいられない。
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下栗の里 |
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左下に見えるのが遠山川 まさに天空の里 |
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ここからは一気に下って芝沢ゲートに戻った。