2024年4月 オートルート シャモニー〜ツェルマット【2日目】

By , 2024年5月9日 10:11 AM

オートルート 2日目(4/3)ヴェルビエ〜ショーのコル〜モミンのコル〜プラフルーリ小屋

山行記録は7回シリーズです。
【プロローグ編】                     
【1日目】2024年4月2日 グランモンテ〜シャンペ 
【2日目】4月3日 ヴェルビエ〜プラフルーリ小屋
【3日目】4月4日 プラフルーリ小屋〜ディス小屋
【4日目】4月5日 ディス小屋〜ヴィニエット小屋
【5日目】4月6日 ヴィニエット小屋〜ベルトール小屋
【6日目】4月7日 ベルトール小屋〜ツェルマット
 
今回の全行程 >>> クリックで拡大
Haute_route All
 
 2日目のルート >>> クリックで拡大
Haute_route Day 2 (2024_4_3)
 

昨日の疲労が抜けないまま2日目を迎えた。昨夜寝たのは0:00近かったと思う。今日からいよいよ小屋泊まりのルートに入る。眠い目をこすりながら荷物をまとめた。行動用の荷物以外はゴールのツェルマットまで回送してくれる。7:30にガイドが来た。送迎用の車に乗り込む。ご主人がヴェルビエまで送ってくれた。

ヴェルビエには9:00に着いた。「お気をつけて。ツェルマットでお会いしましょう」ここでご主人とはお別れだ。ゴンドラに乗ると車窓から雰囲気のあるリゾート宿泊施設が軒を並べているのが見えた。ゴンドラを降りるとスキー場を滑ってもう一つ奥のゴンドラに乗った。
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ゲレンデのトップからは少し滑り左に大きくトラバースして一気にショーのコル(Col de la Chaux)の下に出た。「このショートカットはいい。モンフォー小屋からここまで1時間半はかかる」とEさんが言っていた。

シールをつけてショーのコルを目指した。何組かのパーティが登って行く。この日は天候が悪く山はガスの中だった。雪も降っていてゴーグルを装着した。ジグザグを刻みながらショーのコルを登った。スマホをなくしたガイドは25000分の1の地図とコンパスでルートを確認している。この先もツェルマットまでそうするそうだ。地図には手書きでさまざまな情報が書き込まれていた。これまでの経験がギッシリ詰まった貴重な地図にちがいない。
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ショーのコルを登る
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ショーのコル
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バルセロナの2人
 

コルの先の斜面を滑る。途中新雪斜面をトラバース中に一瞬斜面がズレたと思ったら自分を囲んだ斜面一帯が動きだした。「やばーーーー」と思って外へ脱出しようとしても制御が効かず転倒。斜面はそのまま流れて行く。その後数メートルほど動いて止まりことなきを得たが、これにはさすがにゾッとした。通りかかったバルセロナから来た二人が思わず「大丈夫か?」と声をかけてきた。
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恐怖体験も束の間、先を目指した。相変わらずのガスで視界がない。ガイドのトレースを忠実に辿るしかなかった。ガスが濃くなるとガイドは「晴れるまで待とう」と言って幾度となく待機を命じた。強風のなかで止まっているのも寒かったが、待っている間にガスは必ずといっていいほど晴れてくる。待つという選択はガイドならではだと思った。
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このころから風雪も強くなった。視界不良で行動に難儀しているスイスの年配のご夫婦に出会う。ガイドが声をかけるとこのルートは初めてとのこと。ならば小屋まで一緒にいこうということに。先頭はガイド、2番手がご主人、あいだに我々4人、ラストが奥様という布陣を組んだ。これもガイドの判断で、道迷いのリスクを減らすためガイドの経験とご主人のGPSを最大限に活用しながら進む方法をとったとのことだった。奥様をラストにしたのはチームの列を乱れさせないため。
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 スイスの奥様は素手だった
 

しばらく進むとモミンのコル(Col de Momin)だ。
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モミンのコルを目指す
 

一気に登って滑走モードに切り替えた。ローザブランシュ(Rosablanche)が右手に見えるあたりからプラフルーリ氷河(Glacier de Prafleuri)になるはずだがガスでまったく見えなかった。視界がない中、新雪に覆われた氷河をしばらくガイドのトレースを追っていった。どれぐらい進んだだろうか、かなりの時間が経過した。すると少しガスが晴れたその先に今夜お世話になるプラフルーリ小屋が見えてきた。ほっとした瞬間だった。あとで聞いた話だが、Eさんはこの瞬間が今回の山行でもっとも印象に残ったという。この日は以前から悪天候が予想されていて山行は無理だと考えていたが、間隙を縫うようなガイドの老獪な行動判断によってプラフルーリ小屋までたどり着けた。ここまで来れれば予定コースの完踏も夢ではないと・・・。
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プラフルーリ小屋が見えた
 

プラフルーリ小屋への最後の滑り込みは通常急なオープンバーンの真ん中をトラバースして大きく巻いていくが、この日は雪崩リスクが高いためオープンバーン手前の岩が露出したリッジ状の谷筋を木の葉落としで降りていった。この時も岩の下へ下へ入り込むようにコース取りしていた。あとで小屋から斜面を俯瞰したらなるほどとうなずけた。正面の大斜面のど真ん中をトラバースする通常ルートだと、トラバースした上部の新雪が雪崩れたらアウトというのがよくわかる。今回降りてきたコースは細い急峻な谷筋地形だが、上部に雪がついていない岩綾の下へ下へ退避できる唯一のコースだった。ガイドは20年前、この斜面をトラバース中に雪崩に巻き込まれ同行のクライアントに掘り出された経験があるそうだ。これも長いガイド経験がなせる判断である。
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この先は雪崩リスクが高い
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岩綾帯を縫うように下る
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 プラフルーリ小屋に着いた
 
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翌朝小屋から撮った写真
写真中央から左へのトラバースが通常ルートだが上部から雪崩たらアウト。
右寄りのルンゼ状の斜面を岩の下へ下へ回り込むように降りた。
 

この最後の箇所だけでなく、この日ガイドがとった後半のほとんどのルートが、12年前にたどった軌跡からはかなり左にずれていて、本当にこれで合っているのかとEさんが道中かなり心配していたとのこと。後でわかったのは、ガイドは地形を熟知していて雪崩リスクに鑑み全く別のルートを取ったとのことだった。「ルートとは人のGPSをたどるのではなく地形を見ること」という基本の大切さを痛感させられた。

悪天候で風雪もあり視界がない中だったが、ガイドの適切なルートファインディングで、この日は約9.2kmの行程を約6時間で小屋に到着した。

プラフルーリ小屋は快適だった。オートルート最初の山小屋だった私にとってすべてが新鮮。外装はおしゃれだし、悪天候で使えなかったが外には椅子とテーブルが並んでいた。中も十分綺麗だし、テーブルにはセンスのいい野花が飾られている。とにかくすべてが洒落ているのだ。
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ヨーロッパの山小屋は山岳会が所有・運営していて、広く集められた会費から運営費用が当てられているそうだ。物資はヘリ輸送だがその費用ももちろんそこから出されている。ヨーロッパアルプスと比較するのは適当でないかもしれないが、日本の山岳会や山小屋もあり方を根本的に見直すべきではないだろうか。

食事もおいしかった。スープにはじまり、ビーツのサラダ、マッシュポテト、メインの肉料理、デザートに至るまですべてが手作りと思われ、これには思わず舌鼓を打った。
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行動用の水分補給について、就寝前に備え付けのワゴンにペットボトルやテルモスをおいておけば無料でお茶(紅茶)を入れておいてくれる。このシステムは各小屋だいたい共通である。一部大きなサーバーから各自給湯する小屋もあった。ペットボトルの水は買うことができるが500ml8スイスフラン(約1300円←現在超円安だが)。ちょっと躊躇してしまう値段だ。

今時はスマホやカメラ等のバッテリー問題が付きまとうが、今回宿泊した山小屋(プラフルーリ、ディス、ヴビニエット)は充電が可能だった。ベルトール小屋は充電設備はなかった。いずれもCタイプのコンセントかUSB-Aが差し込めるタップが設置されていた。ただし早い者勝ち。ちなみにヴィニエット小屋は18:00以降は利用できないので注意が必要だ。
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こうして2日目の夜、初めてのヨーロッパの小屋で眠りについた。

 

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