山行期間:2012年7月6日(金)前夜発~10日(火)
縦走行程:上高地~槍沢~天狗原~南岳~(槍穂主稜線)~槍ヶ岳~(西鎌尾根)~笠ヶ岳
メンバー:Lork(単独)
年に一度くらいは、単独で縦走するのも良いものである。昨年は、種池を起点に後立山南部を烏帽子まで歩いた。未踏のルートを埋めていく作業でもある。
今年は、槍沢・天狗原・西鎌尾根・笠ヶ岳をターゲットに、年休2日を含めた5日間で歩いた。
当初はツェルト泊の予定だったが、装備にピッケル・アイゼンが加わり、直前の天気予報で雨が確実となったので小屋泊に変更した。
初日
河童橋から穂高
直通バスで朝5時半に上高地に着き6時に歩き出す。河童橋からは穂高が見えるが、ところどころガスっている。明神にさしかかる頃からポツポツと降り出し、徳沢で傘から合羽・スパッツ・ザックカバーに切り替える。横尾から槍沢への道に入るが、ここからは初めてのコースだ。登山道脇では、お猿さんがお食事中だ。
出発から5時間で槍沢ロッジに着く。まだ午前中だが、雨も激しく、この日の行動はここまでとする。幕営予定だった登山者が小屋泊に変更してやってくるのを尻目に、ビニール合羽で登っていくパーティがある。何を考えているのか、彼らの言葉が理解できないので分からない。
2日目
槍沢の晴れ間
朝から土砂降り、小屋のパソコンで気象庁のレーダー情報を見るが、この付近一帯の雨雲が動かないようだ。ほとんどが下山していくなかで一時停滞も覚悟したが、9時頃になって雨が上がったので歩き出す。薄日も差す槍沢は広くて美しい。しかし天気は永くは持たなかった。天狗原分岐に着く頃には、空は暗くなりまた降り出した。ここからは、槍沢を埋める雪渓をトラバースして右岸側の
天狗原へのトラバース箇所
天狗原へ進むので12本歯のアイゼンを付けピッケルを取り出す。久しぶりの革製重登山靴は、重たい分だけ安心を与えてくれる。トラバース後半の急傾斜部分は小屋のブログにあったとおり雪切りがされていて助かる。
天狗池・天狗原はすべて雪の下で、ガスをとおしてかすかに赤布が立てられているのが見える。赤布どおしのコースは急な雪壁なので回り込むが、次の赤布が見えずルートファインディングに時間を費やす。雨で見通しが効かないなか、濡れたフリースの手袋を絞りながら、何とか雪渓を登り切る。
たどり着いたところは、横尾尾根が槍穂稜線へ突き上げる岩尾根である。アイゼン・ピッケルから解放されたが、膝の直ぐ上の筋肉(大腿四頭筋)が「おらぁ痙るぞ!」と脅しをかけ始めたので、騙しながそっと岩場を登り稜線に出る。
出発が遅かったこともあり、当初予定の槍ヶ岳までを変更し、南岳を越えて南岳山荘へ入る。これで日程が当初の4日間から予備日を使った5日間となる。南岳山荘では、たった一人の泊まり客だった。
3日目
眼下に天狗原
前日の予報では雨だったが、起きてみると日が差している。7時に出発し、また南岳を越え槍方向へ向かう。稜線からは、前日登ってきた天狗原と横尾尾根の詰めの岩尾根がはっきりと観察できた。
槍穂の主稜線は雪もなく、夏道通しで歩ける。中岳・大喰岳を経由して槍の肩に着く。折角だから、空身で槍ヶ岳に登るが、途中で不思議なもの?に遭遇した。それほど急でもない岩場で、何かがズルズルと動いている。よく見ると、後ろ向きで岩にへばりつきながら下っている山ガールだった。そのとき私の吹き出しに浮かんだイメージは、「ナメクジの後ずさり?」でした。こんな連想は、ナメクジに失礼なことと反省しています。
ハクサンイチゲ
槍からは西鎌尾根を進む初めてのコースだ。千丈沢乗越までの下りは問題なく進めたが、それ以降は、またしても残雪が登山道を塞いでいる。全てではないのだが、登山道が稜線の信州側に着いているところは、稜線と残雪でまるで二重山稜のようになっている。こうしたところは、雪稜の頂点部分を歩くのが正解なのだが、登りの山腹が雪に覆われている場合はそう簡単ではなかった。雪面の下に隠れている登山道が、どこで露出した登山道とつながっているのか見えない、分からないのである。そこで威力を発揮したのは、地形図で、自宅パソコンで印刷した9千分の1地形図と首っ引きでコースを探し、何とか事なきを得た。
この日の最後の登り、樅沢岳は登り口からかなり上まで残雪が三角形に覆って、慎重居士の私は2回目のアイゼン着用となる。頂上周辺でハクサンコザクラとクロユリに会い、下って双六小屋に入る。
この日の西鎌尾根では、誰にも会わなかった。
4日目
秩父平からの登り
この日も出発は7時。弓折岳鞍部の小池新道との分岐までは何度か歩いたことがあるが、その先から笠ヶ岳までは初めてのコースである。4日目なので少しは余裕こいて花の写真などにも気が向くようになったが、小池新道との分岐に気付かず弓折岳に到着。このコースも登山道が至るところで雪に覆われている。
コーヒータイム
特にひどかったのは秩父平からの登りで、雪面に点々と撒かれたベンガラを見て、「えー!これを登るの」と思った。ここで、アイゼン・ピッケルが3回目のお出ましとなった。終盤の急斜面にはコブ付きのトラロープが下がっていて、それを伝って雪面を登りきった。標高差120~30mくらいだが、けっこう疲れた。
抜戸岳の手前で大休止を取り、まだ山行2回目のガス・コッヘルセットでドリップコーヒーを淹れ、至福の時を味わう。この辺りからようやく笠ヶ岳の容姿を目にすることができた。
思ったより時間がかかり、14時半頃笠ヶ岳山荘に到着。小屋前に斜面も雪に覆われていたが、ここはキックステップでやり過ごした。
残すは、明日の下りだけと思うと気が楽にななり、21時頃まで飲む。
5日目
日の出時の槍ヶ岳
4時過ぎに起きてサブザックで笠ヶ岳頂上へ向かう。途中で槍の左側から陽が昇る。頂上でゆっくりと写真を撮り、コーヒーを淹れてユッタリとくつろぐ。
影笠
頂上から槍穂の稜線がシルエット状に広がり、南には乗鞍・御嶽が雲海上に浮かんでいる。西側には影笠(笠ヶ岳の影)が雲海に投影し、遠くに白山の上部が顔をのぞかせている。
小屋に戻り朝食を済ませて7時過ぎに出発。下山コースは、昨日来た道を戻って抜戸岳の手前から下る笠新道。この下山コースは2段になっていて、1段目ははカール状の中を下り杓子平までの部分、2段目は杓子平から左俣林道までの急斜面に付けられたジグザグ降りの部分である。それぞれ、約270mと約1,100mの標高差で、合わせて1,370mを下る。
かえりみる笠ヶ岳
まずはじっくりと観察して1段目の下りに取りかかる。雪に覆われていて登山道はほとんど出ていない。雪面上に赤布とベンガラはあるが今ひとつコース取りがすっきりしていな
笠新道の上部 杓子平より
いし、終点がよく分からない。とりあえず、誰も通った跡のない岩をクライムダウンしたりして下りだしたが、途中で安全のためにピッケルを取り出す。ドタ靴の威力でかかとのエッジを利用してガンガン下り、傾斜が緩くなったところでグリセードを試みる。ピッケルのシャフトの長さが足りず、快適なグリセードというわけには行かないが何とか降りきる。1段目を約40分で下り、杓子平で1本立てて降りてきた斜面を眺めるが、地形図の助け無しにはよく分からない。
オオヤマレンゲ
第2段は、ジグザグ混じりのひたすら下りコースで、標高が下がるにつれて汗が噴き出してくる。水分補給の休みを取りながら、左俣林道に12時過ぎに到着。新穂高への林道脇に咲いていたオオヤマレンゲをカメラにおさめ、5日間にわたる山行を終えた。